ーネタバレを含むー
映画『grace』酒でも飲む以外にはなんの楽しみもない国、とても失礼な言い方をするとそんな感想を持ってしまう。世界の超大国の一端をかつては担っていたその国は、実はこんなもんだった、これもまた失礼な言葉ですね。でも映画をみた正直な感想なんです。
野外映画の上映で生活
そんな、父娘のロードームービー。
内陸から、海岸へ向かって旅はつづく。
娘は16歳。
二人の間にはこれといった会話がない。
互いに必要最小限の会話のように見える。
トレーラーと呼ぶには小さなバンでの移動。
狭い空間が、二人の距離感をさらに遠くしているように思えてならない。
近いけど遠い存在。
年頃の娘には、鬱陶しい父の存在。
ましては、車で辺境の村を回る旅。
ロシア南部の内陸部からの移動。
コーカサス地方のダイナミックだけど荒涼とした風景が続く。
そう、退屈な旅なんだ。
年頃の娘とっては。
ロシアの経済事情が見えてくる。
人々の生活は質素。
というか、先進国としては、貧しい部類に入るよね。
名前はロシアというビッグネームでも、その実態はこんなもんだろうなと。
旅する村にはこれといった楽しみがない。
だから、野外映画上映会には、少ないけどその村の大部分がやって来る。
ネットの普及で、商売も先細りに。
そりゃそうだと。
コロナまえ2020年あたりが舞台設定なんですが。
スマホが一切出てこない
そんなはずはない、普及率でいったら日本より高いはずだ。
だけど、スマホを登場させるとこの作品は、壊れてしまう。
意図的にスマホを遠ざけているのだろう。
でないと、物語の雰囲気が変わってします。
このやり方は、ありだと思う。
スマホが出てくると、物語の進行が複雑になり、それをわからせるために説明的な作品になってしまう。
だったら、一切スマホなしにする。
今を描けていないが、物語とその表現したい世界観には、それもありだと思う。
意外と貧しいロシアの庶民生活。
出てくる街が、田舎ということもあるけど。
巨大な軍事力を誇示していたソ連邦の末裔としては、実態はこんなものかが実感。
雪が出てこないのは、コーカサス地方という南に位置するからか。
ロシア=雪に閉ざされたと勝手に思い込んでいた。
映画を通してロシア人が見えてくるのも面白い。
主人公も含めてですが、おおよそ人と親しく触れあうという場面がない。
誰かを信じ心許するという感覚が伝わってこない。
娘と父の対立という展開以上に、画面にはどこか空々しい人の営みが感じ取れる。
ロシアという国はそうなのかもしれない。
知っているようで、知らなかっただけなのか。
映画『寅さん』の登場人物達のような人は、一人も出てこない。
映画『grace』公式サイト:https://grace.twentyfirstcity.com/
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