ーネタバレを含みますー
ミッドセンチュリーのアメリカに憧れた子供の頃。しかし、その実態は、そうでもなかったみたい。映画『セールスマン』から見えてくるのは、生活に四苦八苦する庶民の姿と、なおそこに高額な聖書を売り込もうとするセールスマンの姿、何処か滑稽だ。
安モーテル、煙たい食堂、落ちぶれかけの中流階級達の家の居間。
豪華版聖書を売り歩くセールスマンのドキュメンタリー。
見出しは、映画のチラシのキャッチコピーを拝借。
これだけで、作品のすべてを表現していて、秀逸。
もうなにも説明いらないんだけど。
セールスマン達は、ミッドアメリカン・バイブルカンパニーの社員。
もう、いけいけで、聖書を売りまくる。
さながら、生保レディーさながらのノルマの世界。
チームを組んで、ボストンから西海岸を目指して、街々でセールスに励む。
ミッドセンチュリーの倦怠感を鮮やかに映した。
これも、チラシからのコピー。
もう何も説明はいらなくなった。
でも、あえて。
映画の舞台は、1960年代。
そう、まだアメリカに中流階級が存在していた頃。
高卒でも、フォードに勤めて家が持てて、企業年金が十分支給され。
そう、我々日本人がアメリカなるものに憧れを抱いていた頃のドキュメント。
現実は、そうでもなかったみたいで。
落ちぶれた中流家庭がいくつも出てくる。
もうこのこの頃から、中流階級の凋落は始まっていたのかな。
やがて、中流階級なるものが消滅するんだけど。
布教と聖書の販売。
セールスマンのキャッチフレーズなんだけど。
おおよそ、彼らに布教と福音を伝えるなんて姿勢は、感じない。
ただセールスあるのみ。
たまたま、売るものが聖書だっただけのお話。
しかし、この会社カトリックの教会員だけに売り込むんだよね。
セールス法は、地域のカトリック教会に聖書のサンプルを置き、興味のある人に住所を書いてもらうだけ。
後は、その家を訪問して、ここぞとばかりのセールストーク。
セールストークってノウハウがあるんだろうなと感心させられる。
オレオレ詐欺だって、ノウハウがあるし。
このあたりは、紙一重の世界。
まずは、教会にとり入る。
具体的には、そんな場面は出てこないが。
売上達成パーティーに神父が招待されている場面がありますが。
カトリック教会というのが、わかる気がする。
プロテスタントにとったら、聖書が立派でも粗末でも問題にしない。
要は、書いてある内容ということが、プロテスタントのプロテスタントたる所以。
そのあたり、様式美をある意味大事にするカトリックならでは。
「一家に一冊豪華な聖書を」のセールストークが、カトリック教徒の心を揺さぶる。
まさに、セールスだ。
アメリカの中流階級にあこがれていた日本人
現実は、こんなものだったのかもしれない。
ただ、アメリカでのカトリック教徒は、国民の22%。
そして、その多くは、非イギリス系。
アイルランドであったり、イタリア、スペイン、ポーランド。
そう、一等白人ではないのだ。
貧困層まではゆかなくても、裕福な中産階級ではない。
アメリカ的生活に憧れて、夢見て。
しかし、その多くの実態は、この映画の様なものだったのかもしれない。
映画『セールスマン』公式サイト:https://tofoofilms.co.jp/salesman/
コメント