コロナの影響でしょうか、最近公開の新作はどれもパッとしません。まあ、製作現場も制約を受けるのでしょうから、仕方のないことなのでしょうが、こういう時は、以前見損なった作品をじっくりと鑑賞するのがよいかと。今回は、侯孝賢監督の二作品を名画座で。
『フラワーズ・オブ・シャンハイ』19世紀末の上海
まさに、戦前の上海が魔都と呼ばれたころのお話。
舞台は、19世紀末の上海の遊郭。
止めどもない男女のつたない会話で構成される映画。
つたない話の羅列に、人生のはかなさ、この世のうたかたのまどろみが表現された秀作。
男女の会話と阿片。
遊郭も、誰もが入れるような舞台設定になってはいない。
日本の江戸時代でいえば、花魁との戯言。
そんな遊びができるのは、ほんの一部の富裕層。
そんな世界がかつてはあった、人々の夢と空想を包み込む魔都の魅力。
存分に映像化に成功している。
しかし、そこは侯孝賢(ホウ・シャウシェン)の世界観がにじみ出ている。
そう、悲しいまでのはかなさが、映像からあふれ出ているのである。
トニー・レオンをはじめスターが顔をそろえているのも楽しい。
ほぼ、ワンシーンワンカットで、室内だけの構成。
それも、飽きさせず、阿片のまどろみと共に、物語を紡いでゆく。
現代的古典とでも言ったらいいのか。
そこは、小津安二郎の影響の強い侯孝賢(ホウ・シャウシェン)の魔術に酔って下さい。
人間十色、行き当たりばったりの生き方『憂鬱な楽園』
こちらは、『フラワーズ・オブ・シャンハイ』と打って変わって、現代劇。
場当たり的生き方をする主人公と、その弟分とその恋人。
三人が織りなす、ロードムービーといったところでしょうか。
全編に何処かけだるさが漂った、不思議な魅力のある映画。
街のチンピラが主人公と言ったらいいのか。
知性とか教養とかではなく。
動物的感で生きる人間。
人間は、さまざまですから、皆が上昇志向でいるわけもなく。
主人公のような生き方をする人間もいるはず。
それが、妙に南国のけだるさと相まって、独特な世界をつくっています。
これもまた、侯孝賢(ホウ・シャウシェン)の人間観察が冴えわたった作品です。
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