アメリカ白人中流家庭の偽善を赤裸々に描写、1960年代のアメリカンポップカルチャーを牽引した「ロバート・クラム」その過激な描写の源泉は、彼の置かれた特異な家庭環境か、一見ごく普通のアメリカ中流家庭に潜む、暗い影。
ロバート・クラム
1960年代のアメリカのポップカルチャーの先駆者。
その強烈な性表現は、脅迫的であり、露悪的でさえある。
イラストレーターであり、漫画家であるロバート・クラム。
1943年にペンシルベニア州で生まれる。
海兵隊員である父と、カトリック教徒の母。
その中で、性的には禁欲的に抑圧された環境で、敬虔なカトリック教徒として養育される。
さあ、そんな彼がなぜかくも、攻撃的で露悪的な性的表現を執拗に描き続けたのか。
その作品は、1960年代のアメリカアンダーグランドコミックの創始者となり、ポップカルチャーをけん引して行く。
綺麗で、清い作品が、芸術作品である必要などどこにもない。
時には、人間の悪やドロドロした部分を描くことだって、芸術だ。
とわかっていても、ここまで執拗に攻撃的作品群には、圧倒される。
しかし、その作品が、決して拒絶されるばかりではないのは、人間の根源的な部分に露悪的な要素があるからに違いないのでは。
ああ、自分にもこんな部分がある、ただ、日常生活で出すわけにはゆかないから、心の奥に閉じ込めておく。
クラムはお構いなしに、次から次へ、これでもかと作品にする。
複雑な家庭環境
映画『クラム』は、クラムの家族主に兄へのインタビューを中心に、クラムとその家族にせまろうとしています。
残念ながら、彼の兄はこの映画の完成翌年に50歳で、自殺してしまうのですが。
その兄は、いわゆる引きこもり。
高校卒業後は、ずっと実家にこもったまま。
映画では、クラムの家族の異様な環境が垣間見れます。
海兵隊員の父と敬虔なカトリックの母。
どんな育てられ方としたのか、はっきりとは語られていません。
しかし、その当時のアメリカのどこにでもある中流白人家庭なのですが。
その子供達のある意味尋常でない性格から、想像するしかないのですが。
一つ言えるのは、彼らは非常に強迫的です、なにをそこまでおびえているのか。
ドキュメンタリー作成時は、母親は健在なのですが、決してインタビューを受けません。
兄は、クラム以上に漫画の表現に長けている、いや病的なまでの表現に何処か、ひいてしまうのですが。
抑圧された、アメリカ白人中流家庭
1960年代からアメリカ白人中流家庭が、一番いい時代がやってくるのですが。
実は、そうでもないんだよと、ドキュメンタリーを見ていて感じます。
家庭によって違うとは思うのですが。
クラムの家庭が特別だったのかというと、当時からするとそうでもないわけで。
実は、アメリカ白人中流家庭の病巣みたいなものの結集したのが、クラムの家庭だったように思えて。
そこには、繁栄を享受しつつ、その幸せを演じ続ける虚構の中で、抑圧される性が爆発する姿をクラムに見ることができます。
クラムの様に爆発させることで、彼は生きられたのだと。
それが、上手くできなかった兄の最後を見るときに、複雑な思いがします。
映画『クラム』公式サイト:https://crumb2022.com/



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