
歌舞伎の大事なものの一つ季節感
これがないと歌舞伎は成り立ちません。
昨今日本人は、季節感のある生活が、薄らいできております。
しかし、季節とともに心の変化を楽しむ余裕までなくしてしまうのは、いかがなものか。
都会の生活では特にその変化を感じにくいもになってしまってるのでは。
自然の少ない生活環境ではそれもいたしかたないのですが。
せめて、芝居(歌舞伎)の中で、楽しみませんか。
歌舞伎の演目は、季節というものを非常に大事にしております。
そんななか、初夏にふさわしい演目をご紹介いたします。
『梅雨小袖昔八丈』(つゆこそでむかしはちじょう)

河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)の代表的な世話物(せわもの、おもに町人の生活を描いたもの)です。
通称『髪結新三』と呼ばれる芝居です。
登場人物である、髪結い(いまで言う理髪業)の新三のことを指します。
決して作中の主人公ではないのですが、この新三と言う小悪党に人気があり、新三の登場する幕のみ繰り返し上演されております。
新三と言う、アウトローに江戸の粋を感じて
新三は、かどわかし(誘拐)を働く、子悪党ですが。
まさに、髪結いと言うお洒落な職業に見て取れるように、これでもかと言うぐらい江戸時代の粋と言うもを感じさせます。
作者、河竹黙阿弥は明治期に亡くなっておりますが。
その作品には、江戸時代に対する郷愁というものが色濃く映し出されております。
歌舞伎とは、作品を堪能するというよりも役を演ずる役者の芸を楽しむという傾向が強いもので。
本作品ももちろん新三の演じる、粋な仕草、物言いに観客は酔いしれます。

小悪党と言うところが、何とも言えないですね、「泥棒にも三分の理」と言うことわざがありますが。
悪には悪の言い分があるんだというところが、いいですね、歌舞伎は勧善懲悪であるわけですが、それは、あくまでお上(江戸幕府)が悪を礼賛する芝居を許さなかったので、新三の台詞を借りて、庶民の気持ちを代弁させていた部分もあると。
この演目は人気があり、新三を主人公に映画にもなっております。
1937年、山中貞夫監督で当時の前進座の中村翫右衛門が主人公新三を演じ脇も前進座のメンバーが固め『人情紙風船』の題名で作品化されております。
皆さんにも、ぜひ見て頂きたい作品です。
初夏を感じさせる、新三の仕草
新三と言う役は、其の仕草にいかに江戸の粋を感じさせるか、まさにこの芝居のエッセンスでしょう。
特に、湯屋(いまの銭湯)の帰りからの仕草、湯上りの所作、天秤棒を担いだ魚屋。
そして、極めつけが、鰹をさばく魚屋の手際、刺身の一切れを口に運ぶ新三。
まさに、初鰹で一杯の季節感満載の舞台に酔いしれるはずです。
どうか、四季というものがはっきりしなくなった昨今ですが、季節感を大事にしていた時代の作品。
そして、季節感を愛でる生活の豊かさを作品、できれば、歌舞伎の舞台を通して楽しみましょう。
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